企業オーナー

自社株式対策
 自社株式は売却換金が難しいにも関わらず、相続税評価額は高額になりがちです。自社株式の相続税評価額を把握していない企業オーナーの方は意外に多く、相続が発生してからご家族が慌てる事態に陥ります。
 自社株式の相続税評価額は、自社の業績に応じて毎年変動しますから、一定の期間ごとに自社株式の相続税評価額を算定しなおし、相続税額がどのくらいか把握するように努めます。相続税額の多寡によっては相続税評価額の引き下げ、納税資金の準備または後継者への生前贈与などの対策を進めていきます。
 自社株式対策は様々な要因や関係者が絡むため調整が必要なことも多く、短期的な対策では効果が十分に得られないため、ある程度長期的な視点で進めていくことが必要です。

事業承継対策
 企業オーナーの相続では後継者の方がいるのか、いないのかで対策の進め方も変わってきます。親族内承継(お子様などに事業を引継いでもらうこと)の場合には、後継者としての教育やノウハウの引継ぎ、事業を承継しない他のご家族への配慮等を時間をかけてすすめることとなります。
 多くの企業オーナーの方は親族内承継をの希望しておられますが、親族に後継者がいない場合には従業員などへ事業を引き継ぐ親族外承継となります。元から会社に勤めていた方ですので事業への理解はスムーズですが、経営権を引き継ぐための自社株式の取得資金が準備できるかが問題です。
 親族内・親族外承継のいずれの場合も、自社株式の取得資金が問題となるときは、「非上場株式の納税猶予」(自社株式に関わる相続税の80%が猶予される)を利用することも検討します。
 親族にも従業員にも後継者がいない場合、事業を他社へ売却すること(M&A)になります。買い手を探すのが難しいこと、売却資金は(企業オーナーの)相続財産を増やすため相続税負担は増える可能性があることに留意が必要です。

保険の活用
 企業オーナーの相続対策、とりわけ自社株式対策、納税資金の準備、代償資金の準備などで生命保険は有効です。
 生命保険の保険料は一定額が経費になるため、会社の業績を押し下げます。自社株式の相続税評価額は、会社の業績に連動しているので相続税評価額が引き下げられるというわけです。
 また、保険は支払った保険料よりも受け取る保険金のほうが大きくなる(レバレッジ効果)ため相続税納税資金の準備にも優れています。
 上記以外にも、企業オーナーが亡くなると会社の借金を家族が支払わなければならない場合がありますが、会社の借金に見合った保険に加入しておけば、そのような心配も不要です。

代償資金の準備
 企業オーナーの相続では「事業を引き継ぐ人」と「引き継がない人」での財産の分け方が問題になります。自社株式は財産であると同時に、経営権でもあるため事業を引き継ぐ人へまとめて渡さなければなりませんが、「事業を引き継がない人」は貰える財産が少なくなるため、財産分割の際に揉めるのです。
 このような場合、代償分割が有効です。自社株式は「事業を引き継ぐ人」へまとめて渡し、「事業を引き継がない人」は「事業を引き継ぐ人」から、財産が少なくなった分だけお金(代償金)を受け取ります。後継者の経営権を確保しつつ、ある程度公平な財産分割となります。

民事信託の活用
 自社株式は財産であると同時に、議決権も有する特殊な財産です。従来の遺言や相続での自社株式の承継だと議決権が分散することがさけられない場合もあります。
民事信託は、従来の遺言や相続とは異なる財産管理の手法ですので、従来の方法だと解決の難しかった事業承継に関わる諸課題も解決が可能となります。
以下は民事信託を活用した事業承継対策の一例です。これ以外にも活用できる場面はいろいろとありますので、まずはお気軽にご相談下さい。

(例)代表権は後継者に譲ったが、株式はまだご本人が大量に保有しているといった場合には、自社株式を信託財産とすることで収入を確保しつつ、議決権の行使もご本人が行う。ご本人の死後は後継者が議決権を行使するという事例

(例)株主総会や定款の変更などの手間を省きつつ、自社株式の経済的価値だけを後継者に譲り、議決権は引き続きご本人が行使するという事例

(例)事業の後継者がまだ決まっていない場合。ご本人に子供や孫がいるがまだ未成年であったり、他の職業についているといった場合などに、本人や特定の関係者(後継者選定者)に後継者を選んでもらうという事例